労働災害が発生し、労働者が休業したり、死亡したりしたときは、労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出することが義務付けられています。この提出を怠ったようなときには「労災かくし」として問題になります。以下では、労災かくしとはどのようなものかを確認し、労災保険を利用すべきところ、誤って健康保険を利用した場合の対応についてとり上げます。

 

[1]労災かくしとは
労災かくしとは、故意に労働者死傷病報告を提出しないこと、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出することを言います。このように労災かくしが行われると、本来、取り組むべき労働災害の防止が適切に行われず、同様の労働災害を発生させることが考えられるため、労働基準監督署においては厳しい対応が行われています。
実際に近年、厚生労働省ではホームページで、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等の労働基準関係法令の違反について書類送検した企業名等が公表されていますが、この労働者死傷病報告を提出しなかったことにより、書類送検され、企業名等が公表されている事案も多く見られます。

 

[2] 労働災害の受診に健康保険証を使った場合の対応
労災保険を利用して受診すべき労働災害によるケガや病気のときに、健康保険証を提示することで健康保険を利用して医療機関で治療を受けると、健康保険から労災保険への切り替え手続きが必要になります。この切り替えについては、まず、受診した医療機関の窓口に申し出て、切り替えが可能かを確認します。

  1. 受診した医療機関(労災保険の指定医療機関であった場合)で切り替えができる場合
    医療機関の窓口に申し出て、窓口で支払った健康保険の医療費等の自己負担分を返金してもらいます。その後、労災保険の様式第5号「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書」を受診した医療機関へ提出します。医療機関での会社や従業員の費用負担はなく、医療機関が労働基準監督署に様式第5号を提出し、医療機関に医療費等が支払われる仕組みです。

  2. 受診した医療機関で切り替えができない場合
    切り替えができない場合には、医療費等の全額をいったん、従業員が立て替え、労働基準監督署へ請求します。具体的には、協会けんぽや健康保険組合等の保険者(以下、「協会けんぽ等」という)へ労災保険の適用であったことを申し出ます。その後、協会けんぽ等から医療費返納の通知と納付書が届くため、かかった医療費等の全額から、既に医療機関で支払った自己負担額を除いた額の医療費等を金融機関で返納金として支払います。その後、労災保険の様式第7号「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書」を記入し、医療費等の全額を労働基準監督署へ請求します。

労働災害が発生したときに、医療費等について労災保険を利用せずに、全額会社が負担することもあります。このように労災保険を利用しない場合であっても、休業等が発生したときは労働者死傷病報告を提出する必要があります。意図せず労災かくしにならないように、確実に提出をしましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「「労災かくし」は犯罪です。」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/rousai/
厚生労働省「「労災かくし」の送検事例」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/rousai/4.html
厚生労働省「お仕事でのケガには、労災保険!」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaikakushi/dl/leaf-01.pdf

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