先月、厚生労働省は「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」を公表しました。これは全国の労働基準監督署が賃金不払残業に関する労働者からの申告や各種情報に基づき企業への監督指導を行った結果、2021年4月から2022年3月までに不払いになっていた割増賃金が支払われたもののうち、その支払額が1企業で合計100万円以上となった事案を取りまとめたものです。その結果と実際の監督指導の事例は以下のとおりです。

 

[1]是正企業数等の概況
 是正企業数:1,069企業(前年度比7企業の増)
 対象労働者数:64,968人(同427人の減)
 支払われた割増賃金の合計額:65億781万円(同4億7,833万円の減)
 支払われた割増賃金の平均額:1企業当たり609万円、労働者1人当たり10万円
 今回、支払われた割増賃金の合計額は前年よりも減少しましたが、依然として不払い残業が少なくないことがわかります。

[2]監督指導の対象となった事案
 本結果の中に「賃金不払残業の解消のための取組事例」が紹介されており、ここでは労働時間記録と労働実態の乖離の事例をとり上げます。
[概要]

  • 「残業代が適切に支払われない」との情報を基に、労基署が監督指導を実施。
  • 労働時間は、勤怠システムにより把握していた。
  • 勤怠システムで記録されている始業時間前や終業時間後に、パソコンの使用記録が残されており、賃金不払残業の疑いが認められたため、始業・終業時間とパソコンの使用記録との乖離の原因究明や不払となっている割増賃金の有無について調査を行い、不払が生じている場合には割増賃金を支払うよう指導。
 
[企業が実施した解消策]

  • パソコンの使用記録や労働者からのヒアリングなどを基に、労働時間記録とパソコンの使用記録との乖離の原因や割増賃金の不払の有無について調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。
  • 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
    1. 適正な労働時間の記録について社内教育を徹底するとともに、必要な残業が発生した場合にはきちんと申告するよう労働者に説明を行い、賃金不払残業を発生させない環境を整備した。
    2. 管理者が月に2回パソコンの使用記録と勤怠記録の確認を行い、2つの記録に乖離がある場合については、労働者に乖離の理由を確認することとした。
    3. 業務で使用するパソコンについて、残業申請を行わない場合は、終業時間から一定時間経過後には強制的にシャットダウンされるシステムを導入した。

この事案は労働基準監督署から指摘を受ける典型的な内容の一つですが、「当社は大丈夫」と思うのではなく、適正な労働時間の管理や賃金の支払いができているかを、定期的に確認する必要があります。

 

■参考リンク
厚生労働省
「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27591.html

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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