はじめに

⑴ 有期雇用労働者の需要

令和2年有期労働契約に関する実態調査によると有期契約労働者を雇用している事業所の割合は、41.7%となっています。
企業規模別に有期契約労働者を雇用している事業所の割合をみると「1,000人以上」69.3%、「300人~999人」70.8%、「100人~299人」59.1%、「30人~99人」41.9%、「5人~29人」19.6%となっています。

実態調査より有期雇用労働者は、概ね企業規模が大きくなるに伴い、その需要が高まることが分かります。

⑵ 「雇止め」をめぐる問題について

契約更新の繰り返しにより期間雇用を継続したにもかかわらず、突然契約更新をせずに期間満了をもって退職させる等のいわゆる「雇止め」をめぐるトラブルが多く発生しています。

具体的には「雇止め制限の法理」(労働契約法18条)や「無期契約への転換」(労働契約法17条)により「雇止め」が制限され、雇止め期間中の未払賃金や慰謝料等の損害賠償などを請求されるトラブルが発生しています。

⑶ 運用次第でリスクは回避できる

有期雇用契約の雇止め制限の法理などの規制についての理解が浸透しておらず、リスク回避策が打たれていないことが要因の一つとして挙げられます。
有期雇用契約には雇止め制限の法理の規制があることやその規制の範囲、内容など正しく理解して運用していけば、上記トラブル発生のリスクを回避することが可能となります。

本稿では「雇止め制限の法理」について掘り下げて紹介します。


無期雇用契約と有期雇用契約

⑴ 無期雇用契約と解雇制限

無期雇用契約とは、一般的に「正社員」と呼ばれる労働者が使用者と結ぶ契約であり、期間の定めがなく、定年まで雇用される契約のことをいいます。使用者からの無期雇用契約の一方的解約は、解雇権濫用法理によって制限されます。

なお、解雇権濫用法理とは、解雇することに合理的な理由が客観的に存在し、解雇以外適当な手段がなく、解雇という重い処分を行うことが社会通念上相当といえる場合でなければ当該解雇は解雇権の濫用として無効となることをいいます(労働契約法16条)。

⑵ 有期雇用契約と雇止め制限

有期雇用契約とは、一般的に「契約社員」や「嘱託社員」「パート」などと呼ばれる労働者が使用者と結ぶ契約であり、期間の定めがあるため期間満了時に雇用契約は当然に終了することになります。

もっとも、一定の場合には「雇止め制限の法理」(労働契約法19条)や「無期契約への転換」(労働契約法18条)などにより雇止めが制限されることがあります。

これらの規制があるため、企業側からすると、「有期」雇用契約であるにもかかわらず、当初定められていた期間が経過しても労働者との雇用契約を終了できないという事態が発生する場合があります。


「雇止め制限の法理」について

⑴ 「雇止め制限の法理」とは

「雇止め制限の法理」とは、労働契約法19条1号又は2号のいずれかに該当する場合に、雇用契約の更新拒否が違法な雇止めとして解雇権濫用法理が適用され、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で新たに労働契約が成立することをいいます。

⑵ 「雇止め制限の法理」の要件

ア 労働契約法19条1号又は2号に該当すること

(ア)実質無期契約型(労働契約法19条1号)

労働契約法19条1号には「当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること」と規定されています。

一言でいうと、有期雇用契約がこれまで何度も反復更新され、その更新手続きが形骸化している等、当該有期雇用契約が社会通念上無期雇用契約と実質的に同一視できるような場合をいいます。

(イ)期待保護型(労働契約法19条2号)

労働契約法19条2号には「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること」と規定されています。

一言でいうと、使用者から継続雇用を期待させる言動があったり、同種の地位にある労働者で更新拒絶された者がこれまでいない等、労働者において有期雇用契約がこれまでと同じように更新されると期待することが合理的といえるような場合をいいます。

イ 更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないこと

実質無期契約型又は期待保護型のいずれかの類型に該当する有期雇用契約について、労働者が契約期間満了前に更新の申込みをした場合や契約期間満了後遅滞なく有期雇用契約の締結の申込みをした場合には、客観的合理性・社会通念上相当性がなければ雇止めが適法と認められないことになります。

⑶ 「雇止め制限の法理」の効果

「雇止め制限の法理」により更新拒絶が無効とされると、従前と同一の労働条件で労働者からの有期雇用契約の更新の申入れを承諾したものとみなされることになります。


「 雇止め制限の法理」に関する判例・裁判例の傾向

⑴ 雇止めの適法性を判断する要素

判例・裁判例において雇止めの適法性(労働契約法19条1号又は2号のいずれの類型に該当するか)について、以下の6つの要素を用いて契約関係の状況を総合的に判断しています。
① 業務の客観的内容

従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性、業務内容についての正社員と同一性の有無)が考慮されます。

② 契約上の地位の性格

地位の基幹性・臨時性(嘱託・非常勤講師等)や労働条件についての正社員と同一性の有無が考慮されます。

③ 当事者の主観的態様

継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や、更新ないし継続雇用の見込み等についての雇用主側からの説明等)が考慮されます。

④ 更新の手続・実態

契約更新の状況(反復更新の有無・回数、勤続年数等)や契約更新時における手続きの厳格性の程度(更新手続きの有無・時期・方法、更新拒否の判断方法など)が考慮されます。

⑤ 他の労働者の更新状況

同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等の事情が考慮されます。

⑥ その他

有期労働契約を締結した経緯や勤続年数・年齢の上限の設定等の事情が考慮されます。

⑵ 期間満了時に当然に契約が終了する類型

業務内容や契約上の地位が臨時的な事案や、労働者において期間満了により契約期間が終了すると明確に認識されている事案、更新手続が厳格に定められている事案、同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がある事案等には期間満了時に当然に契約が終了すると判断される傾向にあります(亜細亜大学事件・東京地裁S63.11.25判決参照)。

⑶ 実質無期契約型と判断されることの多い類型

業務内容が恒常的であっても、更新手続が形式的である事案や、雇用継続を期待させる使用者の言動が認められる事案、同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がほとんどない事案等には実質無期契約型の有期雇用契約と判断される傾向にあります(東芝柳町工場事件・最高裁第一小法廷S49.7.22判決参照)。

⑷ 期待保護型(反復更新)と判断されることの多い類型

業務内容が恒常的である場合や同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がある場合であっても、更新回数が多い事案や、雇用継続を期待させる使用者の言動が認められる事案等には期待保護型(反復更新)の有期雇用契約と判断される傾向にあります(日立メディコ事件・最高裁第一小法廷S61.12.4判決参照)。

⑸ 期待保護型(継続特約)と判断されることの多い類型

更新回数は概して少なく、契約締結の経緯等が特殊な事案や契約更新が1度もなくとも雇用継続を期待させる使用者の言動が認められる事案等には期待保護型(継続特約)の有期雇用契約と判断される傾向にあります(福岡大和倉庫事件・福岡地裁H2.12.12判決参照)。


「違法な雇止め」と言われないために

⑴ 雇止めは容易には認められない

雇止めも解雇と同じように、労働者の生活に重大な影響を与えることになることから、裁判上、先に挙げた複数の判断要素を総合的に考慮して労働契約法19条各号に類型化し、雇止めの適法性を厳格に判断する傾向にあります。

⑵ 契約更新限度条項と不更新条項の定めがあっても万全ではない

適法な雇止めを行うために、使用者が労働者と有期雇用契約締結の際に、予め契約更新限度を定めたり、最後の更新の際に、次回は労働契約を更新しない旨の不更新条項を定めることが考えられます。

しかし、このような定めがある場合にも「雇止め制限の法理」の適用が否定されるわけではありません。労働者が従事する業務の内容や使用者の言動、更新手続などの事情から、労働者において更新されると期待することが合理的と言える場合には、この期待は保護される場合があります。
更新限度条項や不更新条項の定めがあっても「雇止め制限の法理」の適用が肯定される場合があることに注意しなければなりません。

⑶ 「終わり」を見据えて「はじめから」対策をとる

使用者は労働者と有期雇用契約を締結する場合には、契約締結の段階で労働条件(契約期間、有期労働契約を更新する場合の基準、就業場所、従事すべき業務、所定労働時間を超える労働の有無など)を明示しなければなりません(労働基準法15条1項)。

とりわけ従事する業務内容や契約上の地位、更新の有無については、後々紛争とならないよう労働者に分かり易く説明するなどして労働条件を明らかにしておく必要があります。

契約更新時においても、更新手続きの都度、有期雇用契約書や労働条件通知書等を取り交わし、更新後に従事する契約内容や契約上の地位、次回の更新の有無について客観的に明らかにしておくことが必要です。また、労働者の意思を確認しながら更新手続きを進めることも必要です。

まとめ

有期雇用契約であっても「雇止め制限の法理」や「無期契約への転換」が認められる可能性があるため、一度雇用すると簡単には雇止めを行うことができません。
使用者は、雇用契約締結時又は更新時の段階から契約終了時を見据えて、雇用契約の手続を進める必要があります。

有期雇用契約に潜むリスクへの対処法 ~「違法な雇止め」と言われないために~ vol.2では、有期雇用契約締結時又は更新時等における具体的な留意事項についてご紹介します。

 

 

 

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園田 真紀

弁護士法人いかり法律事務所

弁護士・経営学修士(MBA)
弁護士法人いかり法律事務所パートナー弁護士。民間企業等での法務・コンプラインアンス部門での豊富な実務経験を有する。経営学修士(MBA)も取得し、法律と経営の両面を踏まえた法的助言が可能。子育て奮闘中の「ママ弁」でもあり、ワークライフバランスの体現者を目指している。趣味は、旅行、美術・建築鑑賞、ピラティス。子どもと一緒にもう一度、グランドキャニオンを旅するのが夢。

 

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