健康増進等を目的として、自転車通勤をする人が増える一方で、条例で自転車利用中の対人事故の賠償に備えるための保険(自転車損害賠償保険)等への加入を義務付ける動きが全国に広がっています。実際に、2019年10月には長野県や静岡県で義務化となり、2020年4月からは東京都においても義務化されます。そこで今回は、自転車損害賠償保険の加入義務付けの動きと自転車の通勤利用の取扱いについてとり上げます。

 

1.自転車事故の高額損害賠償請求
 自転車事故の損害賠償に関する裁判例としては、神戸地方裁判所の2013年7月4日判決がよくとり上げられます。これは、男子小学生が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路で歩行中の女性と正面衝突し、女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負って意識が戻らない状態となり、裁判所が9,521万円の損害賠償の支払いを命じたというものです。

 この他にも賠償額や示談解決額が1,000万円を超える高額な事例が多く発生していますが、高額の損害賠償が求められる理由は、道路交通法第2条において自転車が「軽車両」として定義され、自動車と同じ車両として考えられていることにあります。そのため、自転車に乗る際には、自動車の運転と同様に安全運転についての義務や責任を負うことになり、事故発生時には自動車事故と同じような取扱いがなされています。

2.自転車損害賠償保険等への加入義務付けの動き
 1.の神戸地方裁判所の判決を受け、兵庫県では2014年10月より、全国で初めて自転車損害賠償保険等への加入を条例で義務付けました。そして、この動きは他の自治体にも波及し、2019年12月31日時点で義務化されているのは13の都府県と7つの政令市であり、条例で努力義務として定めているところもあります(下表参照)。※図はクリックすると拡大されます

 自転車損害賠償保険等については、自動車保険や火災保険の特約、自転車向け保険等、様々な種類があります。保険により補償額や保険料等が異なりますので、必要だと思われる損害賠償額が設定された保険を選択する必要があります。特に企業においては業務で自転車を利用している場合と、通勤で自転車を利用している場合について、どこまで保険の加入を義務付け、そして加入有無の確認を行っていくかを検討しておくべきでしょう。なお、保険の種類のひとつに、自転車安全整備店で購入や点検整備を行うことで加入できるTSマーク付帯保険もあります。

 業務または通勤に自転車を利用しているときに、従業員が自転車で事故を起こし損害賠償を求められた場合には、企業は使用者責任が問われる可能性があります。自転車だからということで安易に考えず、この機会に自転車損害賠償保険等への積極的な加入を行いたいものです。

 

■参考リンク
国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」
https://www1.mlit.go.jp//road/bicycleuse/promotion/

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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