有期雇用契約に潜むリスクへの対処法vol.2
1 前回のまとめ
前回は、有期雇用契約における「雇止め制限の法理」の概要や「雇止め」が制限される場合、実務上の取扱い等についてご紹介しました。前回の記事についてはこちら。
今回は、「違法な雇止め」と言われないために有期雇用契約締結、更新時等の各時点において留意しておきたい事項をご紹介します。
2 有期雇用契約締結時の留意点
使用者は、有期雇用契約の契約締結時には、⑴更新の有無と更新基準の明示、⑵契約期間の長さの設定、⑶業務内容、地位、労働条件について正社員との区別、⑷更新への期待を抱かせるような言動は慎むことなどに留意する必要があります。
以下、各項目において具体的に留意したい点となります。
⑴ 更新の有無と更新基準の明示
ア 更新の有無について
雇用契約書や労働条件通知書内には「契約の更新の有無」について「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」「契約の更新はしない」など明記しておくことが必要です。
有期雇用契約における自動更新は、更新手続の形骸化につながり、雇止め制限法理が適用されるリスクが発生するので控えた方が良いでしょう。
イ 更新基準の明示について
同様に「契約の更新」については、契約期間満了時の業務量や勤務成績、勤務態度、職務遂行能力、会社の経営状況、従事している業務の進捗状況など更新基準の判断要素を明記しておくことが必要です。
また、雇用契約書や労働条件通知書などの書面を渡すだけではなく、必ず更新の有無と更新基準を口頭でも説明するように努める必要があります。
上記書面内に「☑更新の有無は更新基準に従って判断されることについて説明を受けて理解しました。」などのチェック欄を設けると、労働者の理解を確認しながら説明を行うことができるのでより良いでしょう。
⑵ 契約期間の長さの設定
ア 契約期間の上限は原則3年(労働基準法14条1項)
有期雇用契約の締結又は更新の際には、契約期間の上限に注意する必要があります。
原則として有期雇用契約の上限は3年とされていますが、大学教授や医師など高度の専門的知識を有する労働者や、満60歳以上の労働者については有期雇用契約の上限は5年とされています。また、一定の事業の完了が必要な期間を定める労働契約については当該期間が雇用契約期間の上限とされています。
更新の可能性がある場合、契約締結時から法律の範囲内で「更新したとしても通算〇年を超えない」「更新は〇回までとする」などと記載しておくと労働者にとっても予測を立てやすくなります。
ただし、これら契約更新限度条項や不更新条項を記載したとしても、契約更新への期待を抱かせる言動があった場合等には「雇止め制限の法理」により、雇止めが認められない場合があるので注意が必要です。
また、契約更新をくり返し通算で5年を超えると無期雇用契約へ転換するリスクがあるので注意が必要です。
イ 必要以上に契約期間を短くしない
「使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する 目的に照らして、必要以上に短い時間を定めることにより、その有期労働契約を 反復して更新することのないよう配慮し」なければなりません(労働契約法17条2項)。
反復更新の実態などから、実質的に期間の定めのない契約と変わらないといえる場合や、雇用の継続を期待することが合理的と考えられる場合には「雇止め制限の法理」により、雇止めが認められない場合があるので注意が必要です。
なお、3回以上契約が更新されている場合や、1年を超えて継続勤務している者については、契約を更新しない場合、使用者は30日前までに雇止め予告を通知しなければならなくなります。
⑶ 労働条件について正社員との区別
業務や地位に応じて正社員(無期雇用契約社員)と有期雇用契約社員の労働条件を合理的に区別する必要があります。
具体的には、正社員は基幹性のある地位があることから恒常的業務を、有期雇用契約社員は臨時的、一時的な地位にあることから臨時的、補助的業務に従事させるよう合理的な区別に努める必要があります。
経営上の必要性や労働者の業務遂行能力などから、有期雇用契約の社員にも正社員と同じように恒常的業務に従事させるケースが多くみられますが、この場合、有期雇用契約社員に契約更新の合理的期待を抱かせる可能性が生じ、「雇止め制限の法理」により、雇止めが認められない場合があるので注意が必要です。
⑷ 更新への期待を抱かせる言動は慎む
「出来る限り長く働いてほしい」「そのうち正社員として登用する」等、契約更新へ合理的期待を抱かせる言動はとらないようにする必要があります。特に、人事権を持つ立場の方や役員の方がこのような発言をされると、ますます更新への期待が高まってしまうことになります。
更新の合理的期待を抱かせる言動を行った場合には「雇止め制限の法理」により、雇止めが認められない場合があるので注意が必要です。
3 有期雇用契約更新時の留意点
使用者は、有期雇用契約の更新時には、⑴ 厳格な更新手続きの実施、⑵反復継続しての更新は慎重に行う、⑶他の労働者の更新状況との均衡を図ることに留意する必要があります。
以下、各項目において具体的に留意したい点となります。
⑴ 契約更新の手続きは毎回厳格に行うこと
有期雇用契約の更新手続きを行う場合には、黙示の更新(期間満了後も労働者が労務を提供し、使用者がこれを黙認している場合)などは控え、毎回厳格な手続きを実施して行う必要があります。
具体的には、労働者ごとに労働条件と更新状況を確認・把握し、更新手続きを記録化することや、更新の可否を更新基準に従って毎回判断すること、更新の意向確認と面談を実施する(期間満了前2か月頃前までに)こと、更新する場合、期間満了日前に、更新後の労働条件通知書(更新契約書)を交付し、次回更新の有無と判断基準を口頭でも説明することに努める必要があります。
更新手続きが形骸化していたり、黙示の更新を行っていると、実質的に無期雇用契約と社会通念上同視できる又は更新への合理的期待があると判断され、雇止めが認められない可能性があるので注意が必要です。
⑵ 反復継続しての更新は慎重に行う
反復継続して更新を繰り返して雇用期間が長期化すると、更新期待への保護の価値判断が働きやすくなります。
また、契約更新をくり返し通算で5年を超えると無期雇用契約へ転換する可能性もあるので注意が必要です。
なお、3回以上契約が更新されている場合や、1年を超えて継続勤務している者については、契約を更新しない場合、使用者は30日前までに雇止め予告を通知しなければならなくなります。
⑶ 他の労働者の更新状況との均衡を図ること
同様の地位にある労働者について、過去に雇止めの例がない場合には、 実質的に無期雇用契約と社会通念上同視できる又は更新への合理的期待があると判断され、雇止めが認められない可能性があるので注意が必要です。
4 有期雇用契約終了時の留意点
使用者は、有期雇用契約の契約終了時には、⑴ 雇止めの理由と相当性の確認、⑵ 雇止めの予告を行う、⑶ 雇止めの理由の開示を行うことに留意する必要があります。
以下、各項目において具体的に留意したい点となります。
⑴ 雇止めの理由と相当性の確認
雇止めの理由が会社の経営上の理由(経済的事情)による場合、雇止めは比較的認められやすい傾向にあります。
他方、成績不良や仕事のミス、非違行為など労働者本人の帰省性を理由に雇止めをする場合には、当該成績不良、仕事上のミスや非違行為の内容・程度を厳格に吟味する必要があります。また、注意して改善の機会を何度か与えたのかどうかなど手続きの相当性も考慮する必要があります。
労働者本人の帰責性を理由に雇止めを行う場合に備えて、使用者は日頃から更新基準に従い人事評価を行い証拠化しておくことが必要です。勤務成績や勤務態度、職務遂行能力などに問題ある場合には注意をして改善の機会を与え、その旨の記録を残すよう努める必要があります。
⑵ 雇止めの予告を行う
3回以上契約が更新されている場合や、1年を超えて継続勤務している者については、契約を更新しない場合、使用者は30日前までに雇止め予告を通知しなければならなくなります。
⑶ 雇止めの理由の開示を行う
使用者は雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合には、遅滞なくこれを交付しなければなりません。
雇止めの理由は「期間満了によるため」とするだけでは足りません。
例えば、「担当していた業務が終了・中止したため」「 事業縮小のため」「業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため」など具体的理由を開示するよう努める必要があります。
5 無期雇用契約への転換
⑴ 無期転換ルールとは
無期転換ルールとは、平成25年4月1日以降に開始した有期雇用契約の通算契約期間が5年を超える場合には、その契約期間の初日から末日までの間、無期雇用契約への転換の申込みをすることができることをいいます。
⑵ 無期転換ルールの効果
有期雇用契約の更新により、通算契約期間が5年を超える場合には、5年を超えることとなる有期雇用契約の期間満了までに無期転換申込権(使用者に無期雇用契約の締結を申込む権利)を行使することができます。
この場合、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされ、有期雇用契約の満了日の翌日から無期雇用契約が成立することとなります。ただし、期間を除き労働条件は有期雇用契約の労働条件と同じ内容となります。
⑶ 反復継続の更新による契約期間に注意する
有期雇用契約を反復継続更新して通算契約期間が5年を超える場合、有期雇用労働者に無期転換申込権(使用者に無期雇用契約の締結を申込む権利)を行使される可能性があります。労働者による無期転換申込権の行使を使用者は断ることはできないので注意が必要です。
6 最後に
令和2年有期労働契約に関する実態調査によると、雇止めをめぐるトラブルの原因は「雇止めの理由について納得してもらえなかったため」が57.2%と最も多く、次いで「更新後の労働条件について納得してもらえなかったため」が45.7%、「更新への期待についての認識の違い」が23.6%となっています。
このように、有期雇用契約締結時又は更新時において、労働者に対して更新の有無や更新基準など労働条件を明らかにして説明しておくことがとても重要であることが分かります。
雇止めに関する後々の紛争を予防するために、使用者側で労働条件の説明の事実を証拠化しておくだけでなく、労働条件に関する労働者の理解を都度確認しながら雇用契約の締結及び更新の手続きを進めることが必要です。
具体的な雇用契約の内容や締結及び更新の手続きについて、少しでも気になることがあれば、弁護士や社会保険労務士など人事労務の専門家に相談してみると良いでしょう。
author
- 園田 真紀
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弁護士法人いかり法律事務所
弁護士・経営学修士(MBA)
弁護士法人いかり法律事務所パートナー弁護士。民間企業等での法務・コンプラインアンス部門での豊富な実務経験を有する。経営学修士(MBA)も取得し、法律と経営の両面を踏まえた法的助言が可能。子育て奮闘中の「ママ弁」でもあり、ワークライフバランスの体現者を目指している。趣味は、旅行、美術・建築鑑賞、ピラティス。子どもと一緒にもう一度、グランドキャニオンを旅するのが夢。
監修
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